機能性ディスペプシア(胃腸症)の症状、原因と漢方薬の考え方

十字屋平蔵薬局 薬剤師 富居博典

記事監修
十字屋平蔵薬局 店長・薬剤師 富居博典
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可能な限り信頼できる情報をもとに作成しておりますが、あくまでも私見ですのでご了承ください。内容に誤りがあった場合でも、当ブログの閲覧により生じたあらゆる損害・損失に対する責任は一切負いません。体調に異変を感じた際には、当ブログの情報のみで自己判断せず、必ず医療機関を受診してください。

西東京市に漢方薬局を開局以来、様々な症状の相談がありますが、なかでも多いのが胃腸症状です。具体的にはみぞおちの痛みやもたれ、吐気、食欲不振などです。そのような胃腸症状が長期に続くとつい慢性胃炎や胃潰瘍が起きているのでは、はたまた胃がんにでもなっているのではと思い悩むかもしれません。意を決して病院へ行って胃内視鏡の検査を受けてみたものの特段異常がない、むしろ胃はきれいだと言われた、などの経験はありませんか。日々の漢方相談のなかで、病院で機能性胃腸症あるいは機能性ディスペプシアと診断されたと言うお客様と接する機会があります。今回はその機能性胃腸症または機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)の症状、原因と漢方薬の汎用処方について書き綴ってまいります。

  1. 機能性ディスペプシア(胃腸症)の基礎知識
  2. 機能性ディスペプシアの治療法について
  3. 機能性ディスペプシアと漢方薬
  4. 機能性ディスペプシアの漢方薬を購入するには?
  5. 漢方薬局に相談するときのポイント
  6. 機能性ディスペプシア(胃腸症)に関するよくある質問

1. 機能性ディスペプシア(胃腸症)の基礎知識

1-1.症状・特徴

口にした食べ物は食道を経由して胃袋へ入り、十二指腸へ排出されます。食べたものがスムーズに排出されなければ胃もたれや、胃の膨満感、ゲップ、胃の痛み、胸やけ、吐気などの症状に悩まされます。機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)とは胃がんや胃潰瘍など器質的な病変がないにも関わらず発症する症状です。大きく以下の二つの症状に分類されています。

食後愁訴症候群(しょくごしゅうそ)

食後のもたれ感やすぐにお腹がいっぱいになって食べきれない症状です。

心窩部痛症候群(しんかぶつう)

心窩部つまりみぞおちの痛みや焼けるような症状です。

※疾患には機能性と器質性とがあり、解剖学的に細胞の損傷がないにもかかわらず障害がある場合を機能性疾患と言い、神経や筋肉、粘膜に損傷がある状態を器質性疾患と言います。

※機能性ディスペプシアと一部症状が似ているものに非びらん性胃食道逆流症があります。両者ともに炎症はないのですが、機能性ディスペプシアは胃やみぞおちに不快感を示すのに対して非びらん性胃食道逆流症は食道に不快感を示します。両者の診断は医師によりなされます。

1-2.原因

上記の胃もたれ、膨満感、ゲップ、吐気などが起きるのには様々な原因が考えられます。

飲み過ぎ、食べ過ぎ

やはり一番の原因として飲み過ぎ、食べ過ぎが挙げられるでしょう。また食べ物によって消化の時間は変わると思われますが、通常胃に食べ物が滞留する時間は野菜の場合1時間から2時間、米や麺類などの炭水化物系は2時間から4時間、タンパク質は4時間から6時間と言われています。消化吸収にはかなりのエネルギーを注がれています。年齢とともに代謝スピードも低下します。出来るだけからだに負担がかからないよう、腹八分目が大切です。

ストレス

胃は脳からの神経の一つ迷走神経の支配を受けています。この迷走神経の刺激により胃腸の働きや胃酸の分泌が促進されます。ここに何らかのストレスが加わることにより胃腸の働きが低下し、胃もたれなどの症状を引き起こしてしまう可能性があります。

胃腸機能の低下

元来胃腸の働きが悪く消化に時間がかかることも原因として考えられます。往々にして体形はやせ型で、下痢症や便秘症のケースが多い場合があります。

ピロリ菌

漢方薬局にご来店の方の中にはピロリ菌を除菌した経験をお持ちの方もいらっしゃいます。このピロリ菌が胃もたれの原因になることもあります。また胃がんのリスクを高めることも知られています。胃もたれや膨満感などでお悩みの方は是非一度検査を受けることをお勧めいたします。最近では簡単に検査が出来ます。

2.機能性ディスペプシアの治療法について

2-1.新薬による治療

運動機能改善薬(アコチアミド)、胃酸分泌抑制薬としてはH2ブロッカー、PPI(プロトンポンプ阻害薬)と言われる胃酸を抑えるお薬、消化管運動改善薬が医師より処方されています。

2-2.漢方薬の服用

胃腸の働きを改善したり、ストレスに対応する疏肝理気薬(そかんりきやく)や自律神経やホルモンのバランス、睡眠障害など体質や体力など他の症状にも合った漢方薬が適応されます。

2-3.鍼灸

漢方薬と同様に東洋医学的な治療法の一つとして鍼灸やマッサージがあります。胃腸の動きは迷走神経の支配下にありますので、足三里などの経穴、経絡を刺激することにより自律神経を調整し副交感神経を優位になることを期待します。

3.機能性ディスペプシアと漢方薬

3-1.漢方における機能性ディスペプシアの考え方

『 胃腸は健康のバロメーター』と称されることがあります。健康を語るうえで胃腸がどうであるかの確認は欠かせません。中国漢方の考え方の一つ五臓六腑弁証では五臓が相互に助けたり(相生)、抑制して(相剋そうこく)バランスを取っていると考えます。特に胃腸(脾胃)はストレス(肝)による影響を受けやすく、胃腸の働きを抑えます。また人の生命活動に必要なエネルギーは脾胃とともに心や肺、腎と言った臓腑が協調して体内を巡っていると考えます。ですから胃腸だけでなく他の体調も考え合わせ一人ひとりに合った漢方薬であることが大切です。

3-2.どんな漢方薬が処方されるか

3-2-1.六君子湯(りっくんしとう)

白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、人参(にんじん)、半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)以上の八種類の生薬から構成されており、半夏、陳皮を除けば四君子湯になります。代表的な人参剤で、白朮、茯苓が水分の停滞を改善しつつ胃腸の蠕動運動を助けます。

3-2-2.四逆散(しぎゃくさん)

柴胡(さいこ)、枳実(きじつ)、芍薬(ちんぴ)、甘草(かんぞう)以上の四種類の生薬から構成されているシンプルな漢方処方です。柴胡と黄芩(おうごん)を含むいわゆる柴胡剤ではありませんが、精神的緊張やストレスにより気の巡りが停滞(気滞)することによる、みぞおちのつかえや手足の冷えなどの症状に対処します。

 3-2-3.人参湯(にんじんとう)

人参(にんじん)、乾姜(かんきょう)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)以上の四種類の生薬から構成されている漢方処方です。からだが冷えて新陳代謝が低下しているために胃腸がしっかりと機能しないタイプに用いられます。

4.機能性ディスペプシアの漢方薬を購入するには?

4-1.漢方薬を処方してくれるクリニックに相談してみる

ほとんどの医療機関で漢方薬を処方されており、調剤薬局での購入が可能です。

 4-2.漢方薬専門の薬局に相談してみる

薬局でも漢方薬を専門としている所とそうでない所があります。あらかじめホームページでご確認されることをお勧めいたします。ちなみに当店は東京都西東京市の西武池袋線ひばりヶ丘駅北口徒歩1分とアクセスしやすい立地にあります。ご予約の上ご来店ください。

 4-3.インターネットやドラックストアで購入する

ご自宅にいながらにして漢方薬を購入できる時代となりました。何らかの理由で外出できない方には便利な購入手段になります。但し当店はご来店が原則となりますのでご了承ください。

5.漢方薬局に相談するときのポイント

5-1.胃の症状はどのような時に強く感じるのか

最初に機能性ディスペプシアの症状の特徴として食後愁訴症候群と心窩部痛症候群についてご説明いたしましたが、実際に食後の膨満感なのか、胃痛なのかまたどのような時に強く感じるのかお知らせください。

5-2.舌の状態はどうなのか

舌ですべてを知ることはできませんが、舌苔の色合いや厚さ、また舌質や舌裏の静脈など胃腸や体質に関する大切な情報源になることもあります。

5-3.食生活などの生活環境や服用しているお薬はどうなのか

最初にお話しましたように機能性ディスペプシアはストレスによる自律神経の乱れが原因となることがあります。夕飯が遅かったり、食後疲れて横になっているなどの生活習慣の確認が大切です。また鎮痛剤など胃腸に影響するものもありますので、他に常用しているお薬なども含めてお知らせください。

6. 機能性ディスペプシア(胃腸症)に関するよくある質問

Q.食事はどのようなことに気を付ければよいでしょうか?
A.食事の取り方は大切です。辛いものや脂っこい食事は控え、食べ過ぎは慎み、腹八分目が大切です。またゆっくりとよく噛んで食べることをお勧めいたします。さらに食後はすぐに横にならずゆったりと座ったままの状態でいましょう。

Q.漢方薬はどれくらいで効いてきますか?
A.早い方ですと1、2週間で改善を実感される場合もあれば数ヵ月かかる場合もあります。程度やお悩みの症状がどれくらい続いているのか、生活環境がどのような感じなのかなどによって違いがあります。

Q.漢方薬は一種類なのでしょうか?
A.当店では機能性胃腸症に対して、一種類の場合もあれば複数の漢方薬をお勧めする場合があります。複数種類を同時服用する場合は成分がかさなる場合がありますので、飲み方については処方される医師もしくは購入される漢方薬局にご確認ください。また同じような症状であっても冷え性か否かによって、体力の有無によっても様々です。出来るだけ体質に合った漢方薬であることが大切です。

Q.漢方薬に含まれる甘草が血圧を上げると聞きましたがそうなのでしょうか?
A.服用したすべての方の血圧を上げるわけではありませんが、甘草に含まれるグリチルリチンが副腎皮質ホルモンであるアルドステロンと似た構造をしているために、血圧上昇や浮腫み、低カリウム血症になる場合があります。変だなと感じたらお買い求めた薬局か処方して頂いた医師にお尋ねください。

Q.タバコは胃腸に悪いのでしょうか?
A.喫煙により胃腸の血流が低下することは明らかになっています。また交感神経を優位にしますので、機能性ディスペプシアに悩む方は喫煙をやめることをお勧めいたします。また肺がんや食道がん、咽頭がんのリスクを高くします。

Q.漢方相談にはどれくらい時間がかかりますか?
A.当店では体調を伺い、お薬の準備、説明、お会計を含め初回に40分から60分程の相談時間を要します。あらかじめご予約の上ご来店ください。

まとめ

今回のブログ機能性胃腸症(ディスペプシア)と漢方薬はいかがだったでしょうか。日々のご相談の中で機能性ディスペプシアに悩む方が多くおられます。食事が思うように取れずに体重減少に悩むケースもしばしばです。適切な漢方薬と食事や運動そして一人ひとりに合ったストレスをあまり溜めない生活スタイルで症状が改善され、元気になることを願うばかりです。あなたも是非漢方薬を取り入れてはいかがでしょうか。

十字屋平蔵薬局 店主 富居 博典

監修者

富居 博典
十字屋平蔵薬局 店主

所属研究会・勉強会
東洋漢方研究会/伝統漢方研究会緑健会日本中医薬研究会

東京薬科大学卒業後、総合病院・調剤薬局での実務経験を経て、漢方専門薬局『十字屋平蔵薬局』を開業。

漢方薬だけでなく病気や症状・治療薬・医療全般についても精通しており、一人一人の治療経過や薬歴を踏まえた提案・養生指導が好評を得ている。地域情報誌にて健康コラム『平蔵の漢方相談』を連載。15年以上続く長寿コーナーとなっており、長きにわたって地元の人々に親しまれている。


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